英国王室の伝統と格式のイメージが強いチャールズ3世国王が、意外な一面を見せた。2025年3月10日のコモンウェルス・デーを記念して、チャールズ国王自らが選曲したプレイリスト「His Majesty King Charles III’s Playlist」がApple Musicで公開されたのだ。
76歳の国王が選んだ17曲には、レゲエの伝説ボブ・マーリーから現代のポップスター・ビヨンセまで、時代もジャンルも国境も超えた多様な音楽が並ぶ。この意外な選曲の幅広さは、イギリス国内外で大きな話題となっている。
「私の人生において、音楽は大きな意味を持ってきました」とチャールズ国王は語る。「音楽には記憶の奥底から幸せな思い出を呼び起こし、悲しい時に私たちを慰め、遠い場所へと連れて行ってくれる素晴らしい力があります。しかし何よりも、音楽は私たちの心を高揚させ、特に祝祭の場で人々を結びつけるときにはなおさらです。つまり、音楽は私たちに喜びをもたらすのです」
Apple Music Radioの特別番組『The King’s Music Room』で公開されたこのプレイリストは、英連邦諸国の多様性を象徴するかのような選曲となっている。国王自身も「これらの曲は、さまざまなスタイルや文化を想起させます。しかしまるで英連邦諸国のように、それらはすべて、さまざまな方法で人生の豊かさと多様性を愛する心を同じように表現しているのです」と説明している。
堅実で保守的なイメージの強いチャールズ国王のプレイリストが、なぜこれほどまでに注目を集めているのか。その選曲の背景と、そこから垣間見える国王の意外な一面に迫る。
英国王室と音楽の意外な関係
チャールズ3世国王が公開したApple Musicのプレイリスト「His Majesty King Charles III’s Playlist」は、単なる音楽の羅列ではない。そこには英連邦諸国の多様性と、国王自身の豊かな音楽体験が色濃く反映されている。
バッキンガム宮殿で録音された国王自身の解説によれば、このプレイリストは「私に喜びをもたらしてくれた楽曲を、皆さんに紹介したかった」という思いから生まれたという。コモンウェルス・デーを祝して選曲されたこのコレクションは、アフロビーツのスター、クルーナー歌手、ポップアーティスト、レゲエレジェンド、ディスコの偉人たちなど、世界各地の音楽を網羅している。
「私が共有したこれらの曲たちを楽しんでいただけたらと願うばかりです」と国王は語る。「もしかしたら皆さんのお気に入りの曲が流れるかもしれないですし、新しい発見もあるかもしれません」
時代と国境を超える17曲の選曲
プレイリストの冒頭を飾るのは、レゲエの帝王ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの「Could You Be Loved」だ。チャールズ国王は若い頃にボブ・マーリーと実際に会ったエピソードを披露している。
「ボブ・マーリーは今年80歳になっていたでしょう。私が若かった頃、彼がロンドンで公演するために来た時のことを覚えています。あるイベントで彼に会いました…彼が持っていた素晴らしく感染力のあるエネルギー、そして彼のコミュニティに対する深い誠実さと深い関心を感じました」
続いて、ジャマイカ出身の歌手ミリー・スモールの「My Boy Lollipop」、オーストラリアのポップアイコン・カイリー・ミノーグの「The Loco-Motion」と続く。1930年代のクルーナー歌手Al Bowllyの「The Very Thought of You」やグレイス・ジョーンズによるフランスの名曲「ばら色の人生」のカバーなど、時代を超えた名曲も選ばれている。
現代の音楽も充実しており、イギリスの若手アーティストRAYEの「Love Me Again」、ガーナの伝説的ミュージシャンDaddy Lumbaの「Mpempem Do Me」、ナイジェリアのスターDavidoの「KANTE (feat. Fave)」など、アフリカ大陸の音楽も多く取り入れられている。
南アフリカの歌手ミリアム・マケバの「The Click Song」、イギリスのジュールズ・ホランドとルビー・ターナーによる「My Country Man」、インド系イギリス人のシタール奏者アヌーシュカ・シャンカールの「Indian Summer」と続き、マレーシアのポップスターSiti Nurhalizaの「Anta Permana」も収録されている。
ニュージーランドのオペラ歌手キリ・テ・カナワの「E Te Iwi E (Call to the People)」、カナダのマイケル・ブーブレの「Haven’t Met You Yet」、カリブ海のモントセラト島出身のArrowによる「Hot Hot Hot」と続き、最後はアメリカの二大スターの曲で締めくくられる。ビヨンセの「Crazy in Love (feat. Jay-Z)」とダイアナ・ロスの「Upside Down」だ。
堅実な国王の意外な音楽センス
この多様な選曲は、堅実で保守的なイメージの強いチャールズ国王の意外な一面を示している。特に、現代のポップミュージックやアフリカ系の音楽が多く含まれていることに、多くの人々が驚きを隠せないようだ。
「堅いイメージのある76歳の国王が聴く音楽の幅広さがイギリスで関心を集めている」とABEMA TIMESは報じている。英王室の公式ウェブサイトでも「The King’s Music Room is sure to surprise and delight music fans everywhere, revealing a more personal side to His Majesty(「The King’s Music Room」は世界中の音楽ファンを驚かせ、喜ばせることでしょう。国王陛下のよりパーソナルな一面を明らかにしています)」と紹介されている。
チャールズ国王のプレイリストは、単に個人の音楽の好みを示すだけでなく、英連邦諸国の多様性を象徴する文化外交の一環としても機能している。ジャマイカ、オーストラリア、ガーナ、ナイジェリア、南アフリカ、インド、マレーシア、ニュージーランド、カナダ、モントセラト、アメリカなど、様々な国や地域の音楽が含まれており、英連邦の結束を音楽を通じて表現しているのだ。
デジタル時代の王室コミュニケーション
チャールズ国王がApple Musicというデジタルプラットフォームを通じて自身の音楽の好みを共有したことは、王室のコミュニケーション戦略の変化も示している。エリザベス女王の時代から続く伝統と格式を重んじる姿勢を保ちながらも、現代のデジタルメディアを活用して国民や世界中の人々とつながろうとする新しい試みだ。
Apple Music Radioの特別番組『The King’s Music Room』では、チャールズ国王自身がバッキンガム宮殿で録音した曲の紹介や、アーティストとの思い出を語るナレーションも流れる。これは、国王の人間的な側面を示す貴重な機会となっている。
音楽は文化の重要な要素であり、人々の心を結びつける力を持っている。チャールズ国王はその力を理解し、自らの音楽体験を共有することで、より多くの人々と心の交流を図ろうとしているのかもしれない。
音楽で紡ぐ新時代の王室像
チャールズ3世国王のApple Musicプレイリスト公開は、単なる趣味の共有を超えた意味を持っている。伝統と格式を重んじる英国王室が、デジタルプラットフォームを通じて国王の人間的な一面を世界に発信したことは、新時代の王室コミュニケーションの形を示している。
特に注目すべきは、このプレイリストが英連邦諸国の多様性を象徴するように構成されていることだ。ジャマイカ、オーストラリア、アフリカ諸国、インド、マレーシア、ニュージーランドなど、かつての大英帝国の植民地から発展した国々の音楽が、一つのプレイリストの中で共存している。これは単なる偶然ではなく、コモンウェルス・デーに合わせた意図的な選曲と考えられる。
チャールズ国王は即位から約2年が経過し、エリザベス女王の長い治世の後を継ぐ難しい立場にある。そんな中、音楽という普遍的な文化を通じて自身の人間性を示し、多様性を尊重する姿勢を表明したことは、現代の君主としての新たなアプローチと言えるだろう。
「音楽は私たちの心を高揚させ、特に祝祭の場で人々を結びつける」という国王の言葉には、分断の時代に共感と連帯を育む音楽の力への信頼が表れている。76歳の国王が若い世代のアーティストの曲も積極的に取り入れていることは、時代の変化に適応しようとする柔軟な姿勢の表れでもある。
堅実で保守的なイメージの強いチャールズ国王が、意外にも幅広い音楽的趣味を持ち、若い世代の音楽にも関心を寄せていることは、多くの人々にとって新鮮な驚きとなった。この「意外性」こそが、プレイリスト公開の大きな話題性につながっている。
音楽は時に政治や外交よりも強力に人々の心を結びつける。チャールズ国王のプレイリストは、英連邦諸国の文化的絆を再確認し、多様性の中の統一という理念を音楽を通じて表現している。それは、現代のグローバル社会における王室の新たな役割の模索でもあるのだ。
ボブ・マーリーからビヨンセまで、時代と国境を超えた17曲のプレイリストは、チャールズ国王という一人の人間の音楽的嗜好を示すと同時に、英国王室が目指す21世紀の姿を象徴しているのかもしれない。