原文を渡さずAIに学ばせる — ソフトバンク「GaranAI」ベータ版が始めた多段階加工と対価還元の仕組み

AI学習データとコンテンツ産業の連携をイメージしたデータセンターの写真

ソフトバンクは2026年7月22日、データエコシステム基盤「GaranAI」のベータ版提供を開始しました(ソフトバンク プレスリリース)。新聞社などから預かった記事を原文のまま渡さず、復元が困難な形に加工してAI開発側へ届け、利用状況に応じて対価を還元する仕組みです。この記事では、2段階の加工処理・参加社数の内訳・現時点で公表されていない論点を順に整理します。

目次

「許諾なしでも学習できてしまう」現行法と、新聞協会が2度出した声明

この基盤が生まれた出発点は、権利者の意思とは無関係に著作物がAI学習に使われ得る、という現行制度の隙間にあります。ソフトバンクの佐藤敏紀氏は、現行著作権法ではコンテンツホルダーの意思にかかわらずAIの学習目的であれば著作物が許諾なく利用されてしまう場合がある、と指摘しています(マイナビニュース)。同氏は既存のデータの出し方についても懸念を示しています。このままでは将来獲得できるはずの価値を守れない、という趣旨の発言です(日本経済新聞)。

報道業界側も、2度にわたって公式に声を上げてきました。日本新聞協会は2025年6月4日に「生成AIにおける報道コンテンツの保護に関する声明」を発表し、報道コンテンツの学習・利用に許諾を求めています。さらに2026年4月20日の「AI検索サービスに関する声明」では、RAG(検索で外部文書を引いて回答を生成する方式)を用いたAI検索が他人のコンテンツを無断利用して回答を作るケースが散見され、権利者の意思尊重と対価還元の動きが遅いと指摘しました。

現行制度のもとでは、権利者の意思と無関係に著作物がAI学習に使われ得ます。これに対し新聞協会は許諾と対価還元を求めており、その間に空いた領域へ通信事業者が仲介役として入る構図です。

2段階の加工で原文を「派生データ」「加工データ」へ変換、復元は困難とされる

この基盤の核は、預かった原文をそのままAI開発側へ渡さない点にあります。加工は2段階に分かれています。

1段目:原文から「派生データ」へ

起点はコンテンツホルダーによる原文データの預託です。預かった原文は、大意や事実関係を維持したまま表現や文章構造が変換されます。この時点で元データへの復元が技術的に困難になる、と説明されています(ソフトバンク公式)。

2段目:派生データから「加工データ」へ

ここからはデータ利用事業者(AI開発側)の作業です。受け取った派生データを、AI学習やRAG Index、ファインチューニング(既存モデルに追加学習させて特定用途へ適応させる手法)などの目的に適したフォーマットへ変換・再構築し、「加工データ」として活用します(マイナビニュース)。

不可逆な加工が防ごうとしている「同一文の出力」

一連の加工は不可逆とされ、AIが元記事と同一の文章をそのまま出力する「デッドコピー」による著作権侵害リスクを遮断することが狙いだと報じられています(manamina)。ただし加工アルゴリズムの技術的な詳細は公表されておらず、どこまで防げるかはベータ版での実運用を待つ段階です。

基盤の構築・運用コストはソフトバンクが全額負担、対価は利用状況に応じて還元される

預ける側の負担を下げ、参加のハードルを取り除く設計になっています。基盤の構築・運用コストはソフトバンクが全額負担するため、コンテンツ企業は初期投資なしで新たな収益源を確保できると説明されています(manamina)。

立場負担するもの受け取るもの
コンテンツホルダー(新聞社・出版社・ウェブサービス・エンタメ企業など)初期投資は不要(基盤コストはソフトバンク負担)利用状況に応じた利用対価の還元、預託データの管理ツール
データ利用事業者(AI開発側)非公表AIの回答精度向上、データ収集・加工のリードタイムとコストの削減

出典:ソフトバンク公式マイナビニュース

実データを出す8社と、提供を表明した30社超。混同しやすい2つの数字

報道では2つの数字が並んで出てきますが、意味は別物です。混同すると「30社超の記事がすでにAI学習に流れている」という誤解につながります。

区分社数意味
ベータ版でデータを提供8社ベータ版で実際にデータを提供する報道機関
データ提供を表明30社超提供を表明した社数(内訳は非公表)

出典:ビジネス+IT

ベータ版でデータを提供する8社の顔ぶれ

報道によると、ベータ版のデータ提供社は共同通信社、産業経済新聞社(産経新聞)、信濃毎日新聞、スポーツニッポン新聞社、デーリー東北新聞社、奈良新聞社、毎日新聞社、室蘭民報社の計8社です(ビジネス+IT)。このうち共同通信社・産経新聞・信濃毎日新聞は複数媒体で一致して報じられています(ケータイ Watch)。

新聞社以外の業種は「交渉中」の段階

対象となるコンテンツホルダーには出版社・ウェブサービス企業・エンターテインメント企業も含まれますが、新聞社以外については多様な業種と交渉中とされており、ベータ版の提供社リストにはまだ現れていません。個人クリエイターや中小メディアが対象に含まれるかどうかは、現時点の報道では明らかにされていません。

分配率もAI開発側の参加企業も未公表 — 正式提供までに埋まるべき空白

現時点で、この仕組みの経済条件はほぼ明らかになっていません。確認できた報道の範囲では、次の項目に記載がありませんでした。

  • 対価の分配率と算定式
  • AI開発事業者側の料金体系
  • ベータ版に参加するデータ利用事業者(AI開発企業)の具体名
  • 加工アルゴリズムの技術的詳細

加えて「GaranAI」はベータ版のコードネームであり、正式提供時に名称が変わる可能性があります(BUSINESS NETWORK)。名称の由来を説明した一次情報も見つかりませんでした。正式提供は2027年1月以降を目指すとされています(ソフトバンク公式)。ベータ版の利用申し込み受付は提供開始と同じ7月22日に始まっています(日本経済新聞)。

まとめ:預ける側・使う側それぞれが、いま判断できることとできないこと

いま判断できるのは仕組みの形までです。原文を派生データ・加工データへと2段階で不可逆に変換し、利用状況に応じて対価を還元する — この骨格と、ベータ版に8社が実データを出し30社超が提供を表明した、という参加状況は確認できます。

一方で判断できないのは条件面です。コンテンツを持つ側にとっては初期投資が不要である一方、対価の分配率と算定式は公表されていません。AIを開発する側では申し込み受付が始まっていますが、料金体系は示されていません。正式提供までに埋まるかを確認すべき項目は、分配率・料金体系・正式名称の3点です。詳細やベータ版の利用申し込みに関する情報はソフトバンク公式ページに掲載されています。

編集後記

原文をそのまま渡さず、派生データ・加工データの2段階で復元困難にしてから学習側に届けるという設計が、私にはいちばん印象に残りました。ただ分配率は未公表のままなので、還元がどこまで実を伴うのかは2027年1月以降を目指すという正式提供を見てから判断したいと思っています。

— CODE. 編集部

Photo: ayumi kubo on Unsplash

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